はじめまして、さかいです。このたび、第2回ゲストとして、namikawaさん、波多野さんからご指名いただきました。このお二人からのご指名とあっては断るわけにはいきませんので、ありがたく、機会を頂戴いたしました。
私は、アスタミューゼ株式会社のテクノロジーインテリジェンス部というところで、未来を創る市場・技術のコンセプト作りや、顧客向けに自社データベースを活用した技術情報の調査・分析業務などを行っています。
アスタミューゼでは、astamuse.comで誰でも無料で見られる特許情報をはじめ、大学・公的研究機関で行われている研究の情報(研究グラント)、クラウドファンディングのプロジェクト情報、ベンチャー企業情報など、知的活動に関する世界最大級のデータベースを保有しています。
これらのデータを活用し、企業様や大学・公的機関様向けに、新規事業・イノベーション創出を支援するサービスもご提供しています。
自分たちの技術を新たな分野で展開したい
さて、日々のお客様とのコミュニケーションの中で、特に研究開発を活発になさっている企業様からは、「自社に技術はあるけど、もともと想定していた事業以外にも、新たな分野での用途展開を検討したい」というお話を頂くことが多いです。この気持ち、私自身が元・材料の研究者だったこともあり、とてもよくわかります。
このような課題に対して少しでも解決の糸口を見つけていただくためのサービスとして、今回、弊社がご提供しているサービスの一つである、「自社技術を活かした新規テーマ探索」について、簡単にご紹介したいと思います。
実際に「自社技術を活かした新規テーマ探索」をやるために私たちがよく利用する情報として、「特許の牽制(引用)」情報があります。自分たちの技術・特許が、他の後発技術の特許の審査過程で拒絶理由として引用されたケースを抽出し、その引用元の他社技術の内容をもとに、自社技術の新しい展開先のヒントを得よう、というものです。
特許の審査?引用?
・・・で、何のことだかわからない方にはさっぱりわからないと思いますので、特許の仕組みまで辿りつつ、もう少し噛み砕いてみます。
まず、新しい技術の発明をして、それを特許として権利化したければ、特許庁に特許出願をした上で、その出願の審査請求をします。出願した技術が特許として認められるためには、
- 新規性(特許法第29条第1項:新しいかどうか)
- 進歩性(特許法第29条第2項:容易に考え出すことはできないか)
が必要です。審査ではこれらの用件を満たすかどうかがチェックされるわけですが、多くの場合は、既に公表された技術などが存在する、先行技術から容易に想像できる、などの理由で「拒絶」され(拒絶理由通知)、差し戻されます。
その後は、めげずに何度か修正(権利範囲を狭めたり)を加えることで無事に特許権が認められるものもあれば、修正してもダメであれば「拒絶」が確定する場合もあります。(特許制度について詳しく知りたい方は、例えばこちらをご覧ください)
審査の結果、拒絶理由が通知される場合は、その根拠となる先行技術の文献が引用されますが、この「拒絶引用」情報が、新たなテーマ探索のための手がかりとなりうるのです。
新たなテーマの手がかりに
次のようなケースを考えてみましょう。ある他社の特許が審査過程で拒絶理由を通知されました。そこで引用された技術の中に、自社が過去に出願し、公開された技術があったとします。
このとき、自社の技術が他社の後発技術の権利化を阻害したことになります。これを私たちは「牽制」と呼んでいます。 たいていの場合は、牽制した先の技術は、牽制元の技術と同じ分野です(例えば、自社の太陽電池の技術が他社の太陽電池の後発技術を牽制)。そりゃそうですよね。
ところが、ごくまれに、自社技術が、自社が想定していたのとは全く異なる分野の技術を牽制している、というケースが存在します。
これはつまり、この他社は、ウチの技術と同じような技術を使いながら、他社は、全く別の分野でそれを活用しようとしていることになります。 ここがまさに注目するポイントです。
これって、平たくいえば、ウチの技術の、今まで思ってもみなかった使い道になりうるわけで、つまり、自社技術の新しい展開先を考える上でのひとつのきっかけとなるのです。
具体的にはどういうこと?
具体的にはどういうことなのか、やや極端ですし、いろいろツッコミどころはあるかと思いますが、下の絵を見ながら例をお示ししましょう。
自分が勤める大手自動車部品メーカーが、ガス浄化機器のためのフィルター技術を開発し、特許を取りました。
あるとき、飲料メーカーや生活用品メーカーが、社内で開発したフィルター技術について特許を出願したのですが、自社が開発した類似のフィルターの技術が既にあることを理由に、拒絶されてしまいました。
このような関係、つまり、自社の技術がどこに引用されているか、どのような他社技術を牽制しているか、を調べていくことで、自動車のガス浄化用に自社で開発したフィルターは、お茶飲料といった、自動車とは全く異なる想定外の分野でも活用できるのではないか、ということに気づくことができるというわけです。
ただ、通常は自社の技術が引用に使われたことは特許庁から特に通知されることはないので、自社技術が審査で引用されたかどうかは、ときどき自分から見に行かなければいけないというのが難点ではあります。
まとめ
当然、自社が手掛けていない異分野では、要求されるスペックが全然違ったり、追加で研究開発が必要であったり、新しい分野の土地勘がなくて参入しづらかったり、会社の方針としてその分野をやることはない、など、アイデアを実現する上ではいろいろと困難なことはあることでしょう。
ただ、ずっと社内で仕事をしているだけではなかなかおもしろいアイデアが出てこない、アイデアを出そうと思ってもどうしても自分の研究テーマに引っ張られてしまう、というお悩みをお持ちの方は、まずはアイデアを発散させるためのきっかけ作りとして、取り組んでみるのはいかがでしょうか。